2006年に購入したとき、建物は30年以上放置されていました。屋根の一部が落ち、1階の床は腐っている箇所があり、窓ガラスはほとんど割れていました。それでも骨格は生きていました。1890年代の船大工が組んだ梁は、叩いてみると今でも硬い音がしました。

修復の基本方針:残せるものは残す

建築史家のPriya Nairと最初に決めたのは「迷ったら残す」という方針です。新しい素材に替えるのは簡単ですが、一度失ったオリジナルの素材は戻りません。心木床は研磨して再塗装、鋳鉄製の暖炉は錆を落として再生、漆喰壁は崩れた部分だけを補修しました。

地元大工Dan Kowalskiとの3年間

Dan Kowalskiはポートタウンゼンドで40年以上働いてきた大工です。古い建物の修復を専門にしており、1890年代の工法を熟知していました。「この時代の建物は、今の建材より素材がいい。丁寧に扱えば100年はもつ」というのが彼の口癖でした。Danなしにこの修復はできませんでした。

現代の快適さをどう加えたか

配管と電気は全面的に刷新しました。断熱材も現代基準に合わせて入れ直しています。ただし、壁の内側に収めることにこだわりました。外から見ても、室内から見ても、1890年代の雰囲気を壊さないように。バスルームだけは新設で、地元産の石材を使いました。

最初の客室が完成した冬

2008年12月、キャプテンズスイートが最初に完成しました。暖炉に火を入れて、一晩泊まってみました。床が軋む音、窓の隙間から入る潮風、暖炉の前の静けさ。「ここに来てよかった」と初めて思った夜でした。翌年6月の開業まで、残り7室を仕上げました。

修復した建物は、新築とは違う時間の流れを持っています。壁の染みも、床の節も、全部この建物の歴史です。それを消さないことが、私たちの仕事だと思っています。